
災害時に企業活動を継続するために欠かせない「非常用発電設備」。近年の自然災害の増加に伴い、事業継続計画(BCP)の要として注目されています。停電が発生した場合、電力供給が途絶えることで業務が停止するだけでなく、データ消失や機器損傷など甚大な被害をもたらすリスクがあります。非常用発電設備は単なる「あれば安心」の設備ではなく、企業の存続に関わる重要な投資となっています。本記事では、災害レジリエンスを高める非常用発電設備の選び方から、効果的なBCP対策のポイント、さらには最新の技術トレンドまで、専門的な視点からご紹介します。適切な非常用発電設備の導入で、いかなる状況下でも事業継続できる強靭な企業体制を構築しましょう。
1. 災害レジリエンスを高める非常用発電設備の選び方
近年増加している自然災害。台風、地震、豪雨など多くの災害によって長期停電が発生しています。企業や施設にとって、電力供給の途絶は業務の中断だけでなく、人命に関わる重大な問題になり得ます。非常用発電設備の導入は、こうした災害時のレジリエンス(回復力)を高める重要な対策です。しかし、どのような非常用発電設備を選べばよいのでしょうか。
まず重要なのは、必要電力量の正確な把握です。災害時に維持すべき重要機能(照明、通信、冷暖房、エレベーターなど)に必要な電力を計算し、それに余裕を持たせたキャパシティの発電機を選定します。例えば、医療施設では生命維持装置などの継続稼働が不可欠であり、データセンターではサーバー機器の電力確保が最優先事項となります。
次に燃料タイプの検討が必要です。ディーゼル発電機は信頼性が高く広く普及していますが、燃料の長期保管には課題があります。一方、天然ガス発電機はインフラが整っている地域では燃料供給の安定性に優れていますが、ガスラインが被災するリスクもあります。また、LPガス発電機は備蓄が比較的容易で、都市ガスよりも災害に強い特徴があります。最近では、太陽光発電と蓄電池を組み合わせたハイブリッドシステムも注目されています。
運転時間も重要な検討要素です。東日本大震災では、一部地域で2週間以上の停電が発生しました。72時間(3日間)程度は最低限の稼働を確保できる燃料タンク容量や、燃料補給計画が必要です。日本防災産業会議の調査によると、事業継続に必要な非常用電源の運転時間は業種によって異なりますが、重要インフラでは最低でも72時間の稼働能力が推奨されています。
設置場所も慎重に選ぶべきポイントです。地下設置は省スペースというメリットがありますが、水害リスクが高い地域では避けるべきでしょう。日本各地の水害事例では、地下設置された非常用発電機が浸水により使用不能になったケースが報告されています。屋上や高層階への設置、または防水対策を施した設計が求められます。
さらに、定期的なメンテナンスと点検体制の構築も忘れてはなりません。三菱重工エンジン&ターボチャージャやヤンマーエネルギーシステムなどの主要メーカーでは、遠隔監視システムを活用した予防保全サービスも提供しています。停電時に初めて起動させようとして動かないという最悪の事態を避けるためには、月次での試運転や年次の負荷試験が欠かせません。
災害レジリエンスを真に高める非常用発電設備の選定には、初期コストだけでなく、長期的な維持管理コストも含めた総合的な視点が必要です。専門業者による現地調査と詳細な提案を受け、自社・自施設の特性に合った最適なシステムを選択することが、災害に強い組織づくりの第一歩となります。
2. BCP対策の決め手となる非常用発電設備の導入ポイント
企業や施設のBCP対策において、非常用発電設備の導入は単なるオプションではなく必須要素となっています。しかし、ただ設置すれば良いわけではなく、効果的な導入には重要なポイントが存在します。
まず検討すべきは「必要容量の正確な把握」です。停電時に維持すべき重要機能を明確にし、それらの消費電力を合計した上で、余裕を持った設計が不可欠です。特に医療施設やデータセンターでは、過小評価が命取りとなります。コンピューターシステムや空調、照明など優先度の高い設備を洗い出し、実際の消費電力を測定することが重要です。
次に「燃料タイプの選定」が重要です。ディーゼル、ガス、LPガスなど、それぞれに特徴があります。ディーゼル発電機は始動性に優れ大出力が得られますが、燃料の長期保存に課題があります。一方、都市ガス発電機はインフラ依存のリスクがあるものの、燃料補給の手間が少ないメリットがあります。立地条件や供給安定性も踏まえた選択が必要です。
「設置場所と環境対策」も見落としがちな重要ポイントです。浸水リスクを避けた高所設置や、騒音・振動対策、排気ガス処理など、周辺環境への配慮が必須となります。三井不動産が手がけた東京都内の大規模オフィスビルでは、地下設置を避け中層階に発電設備を配置することで、水害リスクを大幅に低減しています。
「運転時間と燃料備蓄」の計画も綿密に行いましょう。72時間以上の連続運転を想定した燃料備蓄が標準となりつつあります。東日本大震災では電力復旧まで1週間以上かかった地域もあり、長期運転を見据えた燃料確保ルートの確立が欠かせません。JXTG ENERGYなどの大手燃料供給会社と優先供給契約を結ぶ企業も増えています。
最後に「定期的な点検・メンテナンス体制」の構築が重要です。月次点検と年次の総合点検、そして実負荷試験を定期的に実施することで、いざという時の確実な起動を保証します。東京ディズニーリゾートでは月1回の無負荷運転と年2回の負荷運転試験を実施し、万全の体制を整えています。
非常用発電設備の適切な導入は、単に停電対策というだけでなく、企業価値の向上にも繋がります。災害時の事業継続能力が評価され、取引先からの信頼獲得や、BCP対応を重視する投資家からの評価向上など、多面的なメリットをもたらします。計画的な投資と継続的な管理体制の構築が、真の災害レジリエンスを実現する鍵となるのです。
3. 停電リスクから会社を守る非常用発電設備の最新トレンド
停電リスクに対する企業意識が高まるなか、非常用発電設備の技術革新が加速しています。最新のトレンドとして注目を集めているのが、ハイブリッド型発電システムです。従来の重油やディーゼルだけでなく、太陽光や蓄電池と組み合わせることで、長時間の電力供給を実現。三菱電機の「MELGREEN-HYB」シリーズのように、平常時は省エネ運転、緊急時は自動切替で72時間以上の電力確保が可能な製品が登場しています。
また、IoT技術を活用した遠隔監視システムも主流になりつつあります。発電機の稼働状況や燃料残量をリアルタイムで確認できるため、メンテナンス効率が格段に向上。日本テクノの「T-MONIT」システムは、スマートフォンから設備状態を常時監視でき、異常時には即座に通知する機能を備えています。
小型化・軽量化も見逃せないトレンドです。ホンダの「EU22i」シリーズなど、持ち運び可能なインバーター発電機は、オフィスの一角に設置できるコンパクト設計ながら、重要機器への電力供給が可能。限られたスペースでも導入しやすく、中小企業にも広がりを見せています。
環境配慮型の発電設備も急速に普及しています。ヤンマーの「YEG-Re」シリーズに代表される低騒音・低排出ガス型の発電機は、都市部での使用に最適。排ガス規制に対応しながら、高い電力安定性を実現しています。
最も注目すべきは、マイクログリッド技術を活用した自立分散型電源システムでしょう。パナソニックの「H-LINE」シリーズなど、地域全体の電力を自律的に制御するシステムにより、災害時でも事業継続が可能な「電力の砦」を構築できます。
これら最新設備の導入コストは決して安くありませんが、BCP対策補助金や税制優遇措置を活用することで負担を軽減できます。経済産業省の「災害時エネルギー供給拠点整備事業」など、補助率最大2/3の支援制度も充実しています。企業規模や予算に合わせた最適な非常用電源を選定し、停電リスクから会社を守る体制を整えることが、現代のビジネス環境では不可欠になっているのです。