災害時、電力供給が途絶えた際に頼りになるのが非常用発電機です。しかし、いざという時に機能しなければ、その存在意義はゼロになってしまいます。防災管理者として、非常用発電機の適切な運用は最重要課題の一つです。

全国の防災管理現場では、発電機の不具合による避難誘導の混乱や、適切な点検がなされていなかったために起こる起動トラブルなど、様々な事例が報告されています。これらの問題は事前の対策で防げるものばかりです。

本記事では、実際のトラブル事例や防災査察での指摘事項、最新の法改正に基づく新基準など、防災管理者が知っておくべき非常用発電機の運用ルールについて解説します。災害に備える施設管理者として、万全の体制を整えるための知識を深めていただければ幸いです。

1. 非常用発電機トラブル事例から学ぶ防災管理の落とし穴

非常用発電機は災害時の命綱でありながら、いざという時に動かないという事態が多発しています。ある大規模マンションでは停電時に非常用発電機が起動せず、エレベーターが停止したまま高層階の高齢者が孤立する事態が発生しました。原因は定期点検の不備と燃料の劣化でした。また、首都圏のデータセンターでは発電機は起動したものの、わずか30分で停止。調査の結果、燃料タンクの容量確認ミスと燃料残量の誤認識が原因でした。

病院施設での事例も見逃せません。ある地方の中核病院では、地震後の停電時に発電機は起動したものの、電力供給系統の接続不良で手術室への電力供給ができず、緊急手術の中断を余儀なくされました。冬季の豪雪地域にある介護施設では、発電機が屋外に設置されていたため、大雪で機器へのアクセスができず、暖房設備が使えない状況に陥りました。

これらの事例に共通するのは「日常的な管理の甘さ」です。防災設備は日常では使用しないからこそ、定期的な点検と実負荷試験が不可欠です。また、多くの施設で設備担当者の異動や退職により、運用ノウハウが継承されていないという組織的な問題も浮き彫りになっています。特に中小規模の施設では担当者が兼任であることが多く、専門知識の不足が致命的なミスにつながっています。

防災管理者は「動くはず」という思い込みを捨て、実際の災害を想定した総合的な訓練を実施すべきです。発電機単体の起動だけでなく、実際の負荷を接続した状態での運転確認や、燃料補給手順の確認まで含めた実践的な訓練が重要となります。

2. 防災査察で指摘される発電機運用の5大ミス

防災査察で指摘されるポイントを知っておくことは、防災管理者として非常に重要です。特に非常用発電機の運用に関しては、多くの施設で思わぬミスが発生しています。本項では、消防署の査察担当者が頻繁に指摘する非常用発電機運用の5大ミスについて解説します。

1つ目は「燃料の管理不足」です。多くの施設では燃料の残量チェックが不定期になりがちで、いざという時に燃料切れで起動できないケースが報告されています。最低でも月1回の残量確認と、72時間以上の連続運転を想定した燃料備蓄が推奨されています。

2つ目は「定期点検の未実施または記録の不備」です。法令で定められた点検を実施していても、記録が不十分なために査察時に指摘を受けるケースが多発しています。点検チェックシートを活用し、日付、点検者名、点検項目すべての記録を残すことが必須です。

3つ目は「バッテリー管理の不備」です。発電機のスターター用バッテリーの劣化チェックを怠り、緊急時に始動できないトラブルが多発しています。バッテリー電圧の定期測定と3～5年を目安とした交換計画の策定が不可欠です。

4つ目は「冷却水や潤滑油の管理不足」です。エンジン式発電機では、これらの消耗品管理が運用上の盲点になりがちです。冷却水の量や凍結防止対策、オイル交換履歴などが査察時にチェックされます。

5つ目は「実負荷試験の未実施」です。多くの施設では無負荷での試運転のみを行い、実際の負荷をかけた状態での試験を怠っています。年に1回以上は実負荷試験を実施し、実際の非常時と同条件での運転確認が必要です。

これらのミスは、日常的な点検ルーティンの確立と責任者の明確化によって防ぐことができます。防災管理者として、発電機メーカーの推奨する保守点検サイクルを確認し、施設の実情に合わせた運用マニュアルを整備しましょう。次回の査察では、これらのポイントを事前に整備しておくことで、スムーズな検査対応が可能になります。

3. 法改正対応！非常用発電機の新基準と点検ポイント

近年の大規模災害の教訓から、非常用発電機に関する法規制が強化されています。特に消防法施行規則の改正により、非常用電源の基準が見直され、点検頻度や燃料備蓄量に関する要件が厳格化されました。まず確認すべきは、72時間以上の連続運転可能な燃料確保が義務付けられた点です。これにより多くの施設では燃料タンクの増設や契約見直しが必要になっています。

また、点検基準も強化され、従来の年次点検に加え、毎月の簡易作動確認と半年ごとの負荷試験が標準となりました。点検記録の保管期間も3年間へと延長されています。特に注意すべきポイントは、始動用バッテリーの状態確認です。多くの不具合がバッテリー劣化に起因しているため、電解液量や端子の腐食チェックは欠かせません。

さらに、発電機室の温度管理も重要な点検項目となりました。過熱による性能低下を防ぐため、室温は40℃以下に保つことが推奨されています。適切な換気システムの設置と定期的な動作確認が必須です。これらの基準に適合していない場合、施設の防火管理者は速やかに是正措置を講じる必要があります。

非常用発電機の定格出力についても見直しが行われ、特定防火対象物では、防災設備に加えて避難生活に必要な最低限の設備（照明・通信機器・エレベーター1基以上など）をカバーできる容量が求められるようになりました。既存設備で容量不足の場合は、負荷の優先順位付けと切替システムの導入が現実的な対応策です。

適切な維持管理のためには、メーカー推奨の消耗品交換サイクルを守ることも重要です。特に燃料フィルター、オイルフィルター、エアフィルターは定期的な交換が必要です。これらの部品交換を怠ると、いざという時に発電機が正常に作動しない恐れがあります。非常時に確実に稼働させるためにも、日頃からの適切な管理と新基準への対応が防災管理者の重要な責務といえるでしょう。